とれんど捕物帳 トランプ大統領の為替介入、テールリスクだが絶対にないという保証も無い
今週のドル円は意外にも底堅い推移が続き、21日線の水準を維持している。先週は一時107円台前半まで下落し、21日線から下放れたことから、6月下旬からのリバウンド相場は終了の気配も出ていた。しかし、買い戻しを強める動きまでは出ることはなく、依然として上値は重い状況に変化はない。
今週の話題は何と言ってもECB理事会であっただろう。一部ではサプライズ利下げがあるのではとの憶測も出ていたが結局、政策は据え置いた。しかし、ガイダンスでは「現水準か“それ以下”の金利を必要な限り継続する」に修正し、利下げの可能性を強調していた。更にマイナス金利の階層化の可能性にも言及。そして、新たな資産購入の選択肢も検討していることを明らかにしている。日銀の政策に近づきそうな内容だが、株買う中央銀行がもう一つ増えるか、9月の発表が注目される。
大方の予想通りではあったものの、ECBが緩和への強い姿勢を打ち出したことから、為替市場は一旦ユーロ売りで反応していたものの、その後のドラギ総裁の会見が期待ほどハト派ではなかったとしてユーロは買い戻されている。「噂で売って事実で買う」といった動きであろう。ユーロの上値は重そうだ
さて、米国の為替介入の可能性がウォール街の一部で話題となっている。きっかけはトランプ大統領のツイートだが、大統領は「中国やユーロ圏は為替操作をしている」と非難。6月にも、ECBのドラギ総裁の追加刺激策に言及した時に、「ECBは通貨安戦争を再び開始したとトランプ大統領が確信した」との報道も伝わっていた。ウォール街のエコノミストやストラテジストからは可能性はほぼ無いとしながらも、米国の為替介入の可能性への言及が散見されている。
トランプ大統領だけではない。米民主党の大統領候補の1人でもあるウォーレン上院議員は、他国の為替管理を引き合いに出しつつ、外国の投資家や中央銀行が「自らの利益のためにドルの価値を押し上げている」と非難。米国は「為替の不均衡で被害を受けている国々と協力すべきだ」とも語っている。ドルの積極管理は輸出と国内製造業を促進するという。確かにドルの実効為替レートは過去5年で20%超上昇しており、米企業決算を見ても、期待ほど利益が上がらない要因に海外での売上げがドル高によって目減りしている点が、ここ数年、常に指摘されている。いま行われている第2四半期の決算発表もそうだ。
ドルの番人といえばFRBだが、来週のFOMCで0.25%の利下げを実施してくることが確実視されている。貿易問題で不透明感が増したことや、世界経済が減速傾向を示す中で、あくまで保険的な利下げというのがFRBの建前だ。ただ、個人的にもそう思うが、市場の一部からは直近の好指標から利下げが本当に必要なのか疑問視する声も強い。
そのような中で、トランプ大統領が期待するほどFRBは利下げを実施できないことも予想される。一方で、ECBは着々と追加緩和に再び舵を切っており、日銀や英中銀、その他の中銀もその傾向を強めている状況だ。来年以降、10年続いて来た景気拡大局面が終了し、景気後退に入るとの見方も多い中で、各国中銀は先手を取ろうとしているのかもしれない。
この状況下で為替市場を見ると、期待したほどドル安が進んでいないのが現状だ。来年に大統領再選を狙うトランプ大統領からすれば景気は最重要課題だ。いまさら中国からは手を引けない中、米企業収益を圧迫しているドル高に、これまで以上に白羽の矢が立たないとは限らない。もっと積極的な行動をFRBに求めるであろうが、これが更に過激になって行くことも考えられ、その延長戦上に為替介入もあろう。これまでの政権であれば考えにくかったが、なにせトランプ大統領だ。何をしだすかわからない。
米財務省は介入にコミットできる資金は750億ドル近くとの推計も出ている。FRBがそれに参加すれば、規模は2倍以上に膨れ上がる可能性もあるという。当然、FRB内でも為替介入のメリットに関して異論が噴出するであろうが、このところのトランプ政権からのプレッシャーとFRB行動から見ると、トランプ政権が決断すれば、FRBも参加する可能性が高いとも言われている。
もし、それが実行に移されれば、世界の主要国間で長く維持されてきた為替政策に関する合意が崩れることになる。各国は表向き、「為替介入は悪」としている。特に米国がその考えを主導してきたわけだが、もちろん米国側にもメリットがあった。あらゆる緒問題に関して、他国にプレッシャーをかけるための外交の切り札の1枚だ。中国はもちろん、日本も特にそうであろう。米国側からすれば日本には、為替と安全保障をちらつかせて妥協を迫るのが基本戦略だ。
ちなみに、米国が最後に介入したのは、東日本大震災に伴う円高に各国と協調で対応した時で、そのときはボランティア的な意味合いが強かった。米国が次に介入となればそれは単独介入になるであろう。その場合、短期的には介入の効果が発揮されるかもしれないが、明確な理由が無い以上、象徴的な意味合いしかなく、その効果は持続できないとも考えられている。
ただ、何せ米国の大統領選挙だ。当選のためなら何でもやってくるのは周知の通り。いまのところホワイトハウスは火消しに回っており、テールリスクかもしれないが、絶対に起こらないという保証も無い。なにせトランプ大統領だ!
さて来週だが、重要イベント目白押しだ。指標では米雇用統計、イベントではFOMCや日銀決定会合、そして、米中ハイレベル協議も上海で行われる。その中でもFOMCが最注目であろう。2008年12月以来の利下げが予想されている。一部からは0.5%の大幅利下げの声も出ていたが、直近のFOMCメンバーの発言や米経済指標からすれば、今回は0.25%の利下げに留めそうだ。声明では貿易問題や世界経済の減速の影響を指摘してくるものと思われる。ただ、その点は市場は既に織り込み済みであろう。注目はパウエルFRB議長の会見になりそうだ。今回を含めて年内あと2回の利下げの可能性を滲ませて来るようであれば、ドル売りの反応も想定される。
そして、米中協議だが、月曜日にムニューシン米財務長官とライトハイザーUSTR代表が上海を訪問する。市場では期待感も高まっていたが、この問題は長期に及ぶとの見方が多く、進展はあったと言及するだろうが、具体的なものは見えてこないものと見ている。
日銀も決定会合が予定されているが、同日に発表される展望リポートではインフレ見通しが下方修正される見込み。ただ、一部報道では追加緩和に関して日銀内にも温度差があるという。黒田総裁が会見で「しっかりと強力な金融緩和を続けていく」と、これまでの言及を繰り返すのみと思われる。当日にはFOMCも控えていることから、ドル円に対するインパクトは小さいとは思われるが、注目はして置きたい。
さてドル円だが、リバウンド相場の流れは維持しているものの、やはり上値は重い展開が続くものと予想される。レンジとしては106.50~109.50円を想定。スタンスは「やや弱気」を継続する。
()は前週
◆ドル円(USD/JPY)
中期 中立継続
短期 ↓(→)
◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(→)
◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓↓)
◆豪ドル円(AUD/JPY)
中期 上げトレンド継続
短期 ↓(→)
◆ユーロドル(EUR/USD)
中期 中立から下へトレンド変化
短期 ↓↓↓(↓↓↓)
◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓↓↓)
minkabu PRESS編集部 野沢卓美
![MINKABU PRESS](/assets/minkabufx_writers/logo_minkabupress-ec6bdf5044742e8bc94eb3a16e7629c59f783ac386c16782ef9cebc433901c4b.png)
執筆者 : MINKABU PRESS
資産形成情報メディア「みんかぶ」や、投資家向け情報メディア「株探」を中心に、マーケット情報や株・FXなどの金融商品の記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコンテンツなど幅広く提供しています。