確率的には「再び膠着状態が続く」といった印象
今週はロシアのウクライナへの大規模侵攻の開始で市場に動揺が走り、リスク回避の雰囲気が強まった。ウクライナとの衝突は市場も想定していただろうが、ここまで本格的に侵攻するとは思っていなかったであろう。西側諸国もロシアへの経済制裁を相次いで発表し、ロシアの一部銀行に対して国際決済ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)へのアクセス停止まで打ち出している。
市場は今回の危機による経済への影響を推計し始めている。ロシア自体は思ったほど経済規模は大きくはなく、主要な産業は原油、天然ガスといったエネルギーや小麦といった穀物が大半だ。影響の広まり度合いという点だけから言えば、かなり限定的なのかもしれない。
しかし、ロシアやウクライナからのエネルギーや穀物の供給がストップすることによる、特に欧州経済への影響が懸念されている。タイミングも悪い。パンデミックによる供給制約がまだ解消されていない中で、世界的にインフレが問題になっている。そのような中で、今回の危機で原油や天然ガス、穀物といったコモディティ価格が急騰しており、原油相場は一時116ドル台まで急騰している。成長についてはどうかわからないが、少なくとも高インフレに関しては想定以上に長引く懸念が増している。
市場からは、不況下での物価高であるスタグフレーションを警戒する声が上がり始めている。スタグフレーションは中央銀行にとっては最大のジレンマの1つだ。いまのところは正常化への道筋に変更はなく、利上げ姿勢は維持しているが、ウクライナ危機前よりは慎重なアプローチを示唆している印象だ。その間に今回のウクライナ危機の影響を見極めたい意向と思われ、今週のパウエルFRB議長の議会証言でもその意向が示されていた。
さてドル円だが、ユーロドルやポンドドルなど他の通貨ペアと比較すれば、ニュースの割には底堅かった印象もある。下押す気配もなく、一時116円台をうかがう局面も見られていた。ウクライナ危機に対してドルと円が同じ方向を向いていることからボラティリティは小さい。
とは言え、114円台に値を落として今週を終えたことから、ドル円の確率は上値期待が後退し、下値期待が復活している。117円と113円に着目すると、3月末までに117円に1度でも到達する確率は、前週の51.4%から39.1%に低下した一方、113円は26.3%から48.6%に上昇した。
上値期待がやや後退し、逆に下値期待が高まったことで、117円と113円の確率はほぼ同水準となっている。確率的には「再び膠着状態が続く」といった印象だ。
◆来週以降3月31日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
119円:10.5%(12.6%)
118円:21.5%(27.4%)
117円:39.1%(51.4%)
114.82円(週末終値)
113円:48.6%(26.3%)
112円:27.6%(11.7%)
◆来週以降4月29日までに各ポイントを1度でも付ける確率
()は先週末
120円:15.0%(18.2%)
119円:24.2(30.1%)
118円:36.8%(46.7%)
117円:53.3%(67.7%)
114.82円(週末終値)
113円:63.0%(41.7%)
112円:45.1%(26.1%)
※ドル円のオプション取引から算出
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
執筆者 : MINKABU PRESS
資産形成情報メディア「みんかぶ」や、投資家向け情報メディア「株探」を中心に、マーケット情報や株・FXなどの金融商品の記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコンテンツなど幅広く提供しています。