2つの米経済指標でドル売り強まる ドル円は132円ちょうど付近まで一時急落=NY為替概況
きょうのNY為替市場は2つの米経済指標を経てドル売りが強まった。この日は12月の米雇用統計とISM非製造業景気指数が発表となった。米雇用統計で非農業部門雇用者数(NFP)は22.3万人増と予想(20万人増)を上回ったほか、失業率も3.5%まで低下し、過去最低水準での推移が続いている。
FRBが懸念しているタイトな米労働市場を示唆し、タカ派姿勢を正当化する内容ではあるが、市場は逆の反応を示した。同時に発表になった平均時給が前年比4.6%と予想を下回る伸びとなったことが安心感につながった模様。市場は今年から来年にかけてインフレは鈍化して行き、FRBの利上げサイクルも年前半には終了するとみている。FRBは否定しているが、場合によっては年内の利下げ観測も出ている状況。それを占う上で賃金の動向が最大の鍵となっており、その意味では本日の平均時給の伸び鈍化は幾分安心感をもたらしたようだ。
一方、ISM非製造業景気指数は49.6と予想外に弱く、判断基準の50も下回った。新規受注、雇用指数など構成要素の多くが50を下回っている。、仕入価格も低下し、サービスインフレの低下への期待を示唆。FRBにとっては歓迎される内容で米国債利回りも急低下した。
これらの発表を受けて市場では次回FOMCでの0.25%ポイントの通常利上げを織り込む動きが加速している。前日の確率は60%程度だったが、指標を受けて75%程度まで上昇。来週の米消費者物価指数(CPI)が期待通りにインフレ鈍化を示せば、かなり固まってきそうな情勢ではある。
ドル円は米雇用統計発表前は強い内容を期待して135円をうかがう展開も見せていたが、ネガティブ・サプライズに一気に132円ちょうど付近まで急落。本日の21日線は133.85円付近に来ているが、その水準で上値を抑えられた格好となった。
ユーロドルはロンドン時間に1.04ドル台まで下落する場面が見られたが、米経済指標を経て1.06ドル台半ばまで買い戻された。この日は12月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)速報値が発表になっていた。エネルギー・食品を含んだ総合指数で前年比9.2%と、11月の10.1%からインフレは鈍化。エネルギー価格低下が寄与している。政府によるエネルギー価格抑制策のほか、例年よりも暖冬だったことが奏功したようだ。
しかし、今回の結果にECBは安堵できないであろう。エネルギーと食品を除いたコア指数はサービス価格の上昇ペースが速く、11月の5.0%から5.2%に上昇している。依然としてECBの2%目標を大きく上回っており、加えて、例年以上の賃上げが更なる物価上昇を招くとの懸念がECB理事の間に広がっている。ECBは今後2年間でインフレを目標に戻すために十分なことを行ったとは考えていないであろう。
ラガルドECB総裁はマスコミとのインタビューで「賃金上昇は分かっており、恐らく予想以上に速いペースと思われる。それがインフレを煽り始めないよう警戒する必要がある」と述べていた。ECBは12月に0.50%ポイントの利上げを実施したが、ラガルド総裁は今後2回の理事会でも0.50%ポイントの利上げの可能性を示唆していた。本日のユーロ圏HICPを受けても、その見方に変化はなさそうだ。
ユーロ圏消費者物価指数(HICP)(概算値速報)(12月)19:00
結果 9.2%
予想 9.5% 前回 10.1%(前年比)
結果 5.2%
予想 5.0% 前回 5.0%(コア・前年比)
結果 -0.3%
予想 -0.1% 前回 -0.1%(前月比)
ポンドドルは1.21ドル付近まで買い戻された。指標発表前までは下値警戒感が高まり、1.18ドル台半ばまで下落していた。米雇用統計が期待通りに強い内容であれば、1.17ドル台まで下落する可能性も指摘されていた状況。
FRBやECB、そして、英中銀もそうだが、消費者物価指数(CPI)が鈍化傾向を見せ始めて来ている中で、関心は賃金の動向に集まっている。それに対して、英国ではこの先、賃金の伸びが鈍化しそうな気配が出ているとの指摘もある。従業員を採用するのが難しいと回答している英企業の数が減少しており、賃金の伸びを弱める先行指標となる可能性があるという。
現段階で市場は夏の終わりまでに計1.00-1.25%ポイントの英利上げを見込んでいるが、それよりも前に利上げサイクルが終了する可能性も有り得るとしている。バランス的にはポンドは軟調な推移を予想。ただ、1.1650ドルまでの下落は可能性が低いとも指摘した。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
執筆者 : MINKABU PRESS
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