為替相場まとめ8月7日から8月11日の週
7日からの週は、円売りが優勢だった。中国貿易統計、中国不動産債務問題、イタリアの銀行課税、地政学リスクによる原油高などさまざまなリスク警戒の材料がでている。そのなかで、ドル円相場は着実に水準を上げ、クロス円も堅調な足取りを示している。各主要国の金融政策がインフレと景気をにらんで今後の見通しが定まらないなかで、日銀の揺るぎない緩和政策継続姿勢が再び市場のテーマとしてクローズアップされているようだ。この週に発表された日本の賃金統計では15カ月連続で実質賃金が低下しており、緩和継続の必要性を裏打ちしていた。木曜日には注目の7月米消費者物価指数が発表された。前年比は+3.2%と市場予想+3.3%を若干下回ったが、前回の+3.0%からは上昇していた。ドル相場は売りの初動をみせたが、すぐに切り返してドル高方向の動きでNY市場を終えていた。ただ、ドル指数の流れをみると、先週までの上昇のあとは高止まり状態となっており、今週は上下動を繰り返している。8月に入ってからは明確な方向性に欠けている。
(7日)
東京市場は、ドル売りが一巡し、ドル買いが優勢になった。ドル円は先週末の米雇用統計後のドル売りの流れを受けて、売りが先行し141.52近辺まで安値を広げた。しかし、141.50レベルの買いを崩せずに反転した。日経平均のプラス転を受けたリスク選好の円売りもあって142円台を回復。昼過ぎには142.30近辺まで上昇。午後は142円台前半で揉み合った。ユーロドルは1.1010台からドル買いに押されて1.0980付近まで下落。ECBの追加利上げ期待の後退で上値が重い展開。ポンドドルは1.2760台から1.2718近辺まで下落。ただ、午後に入るとクロス円の買いとともにユーロやポンドの売りは一服した。
ロンドン市場では、ドルがじり高の動き。米10年債利回りが4.05%付近から4.12%付近へと上昇しており、ドル相場を下支えしている。ただ、市場からは先週末の米雇用統計後のドル売りの反動にとどまっているとの見方も。ロンドン時間にはドル円は142円台前半で揉み合うなかで一時142.45近辺まで高値を伸ばした。ユーロドルは東京市場で1.10台が重くなったあと、ロンドン時間には1.0965近辺に安値を広げている。ポンドドルはロンドン朝方に1.2713近辺まで下押しされたあとは、1.27台前半で売買が交錯。クロス円は小動き。ユーロ円は156円台前半で揉み合い、ポンド円は181円を挟んでの揉み合いから小幅に高値を伸ばしている。ユーロ対ポンドではややユーロが軟調も、先週末のレンジ内にとどまっている。
NY市場では、ドル相場が上下動。ドル円はNY朝方には戻り売りに押された141円台に反落する場面があった。しかし、すぐに142円台に戻して142.60付近に高値を伸ばした。先週末の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)は予想を下回り、歴史的な基準値でもある20万人増を下回ったものの、失業率や平均時給は米労働市場の力強さを依然として示しており、市場のFRBの利上げサイクルの見通しに大きな変化を与えなかった。その意味では今週の米消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)が何らかのヒントを与えてくれるか待っている状況のようだ。ユーロドルは1.0965近辺まで下押しされたあとは、1.10ちょうど付近まで戻した。きょうはドイツの6月の鉱工業生産が発表になり、予想を大きく下回る減少となっていた。新規受注がしばらく下降線を辿っていることから、生産高は引き続き低迷し、ドイツ経済は下半期に縮小する可能性が高いという。ポンドドルはNY時間に入ってからは買い戻しがみられ、1.27台後半まで上昇。高水準の英インフレと、それが中期的に持続するリスクが英中銀の早期利下げの可能性を低くしているとの指摘がみられた。
(8日)
東京市場は、リスク警戒のドル買いが広がった。格付け会社ムーディーズ・インベストメントが米BNYメロン、ステート・ストリート、USバンコープなどの複数行を格下げ方向で見直ししたことや、M&Tバンクなど中小銀行10行を格下げしたことに反応した。米株先物が下落、米債利回り低下とともにドルが買われた。リスク感応度の高い豪ドル、NZドルなどの対ドルでの売りが目立った。一方で、円相場は円売りが優勢。朝発表された日本の賃金統計が予想外に伸び鈍化となったことで、日銀の緩和策長期化期待につながった。ドル円はドル高と円安の両面から支えられて、朝方の142.41近辺から143.43近辺まで上昇。ユーロ円は156.69近辺から157.75近辺まで上昇。ユーロドルは1.1006近辺から1.0977近辺まで一時下落。NZドル円は87.30台から87円台割れへと下落。
ロンドン市場では、リスク警戒のドル買いが優勢。この日発表された7月中国貿易統計で輸出・輸入がいずれも大幅減となったことが同国の景気に対する不透明感を広げた。また、東京昼頃に「格付け会社ムーディーズがUSバンコープ、BNYメロン、ステートストリート含む米銀6行を格下げする方向で検討」、ロンドン早朝に「イタリア政府 銀行の余剰利益に対する課税を閣議決定」などと報じられた。欧州株は銀行株や資源株などが主導する形で下落している。リスク警戒が強まるなかで、米10年債利回りは4.08%付近から3.99%台へと低下。為替市場ではドル買いと円買いに。ドル円は東京市場で142円台半ばから143.43近辺まで買われたが、ロンドン時間には一時143円台割れとなったあと、143円台前半で揉み合っている。ユーロドルは1.1011近辺まで買われたあと、方向転換して1.0950台へと安値を広げている。ポンドドルも1.27台後半から1.2720付近へ下落、豪ドル/ドルは0.66台半ばから0.65台割れ目前まで下落。リスク回避圧力でクロス円も軟調。ユーロ円は157.50超え水準から157円台割れへ、ポンド円は182円台後半から182円ちょうど付近へ軟化。豪ドル円は93円台後半から93.10付近へと下落している。
NY市場では、ドル買いが優勢。米株式市場に売りが強まるなど、リスク回避の雰囲気が強まる中、為替市場はドル高の動きが見られた。一方、ドル円については円高も見られ、143円台で売買交錯。中国の貿易収支が予想以上に弱い内容が示されたことから、中国経済への不透明感が更に高まっていることで市場に警戒感が広がっている。ただ、日本の厚労省がこの日公表した6月の毎月勤労統計(速報値)が日銀の金融緩和姿勢を正当化し、円安基調が続くのではとの見方が出ていた。ユーロドルは1.09台半ばまで下落。 きょうはドイツの7月の消費者物価指数(HICP)確報値が発表されていたが、それを受けて、ドイツのインフレは今後数カ月でさらに鈍化するとの見方も出ている。ポンドドルは一時1.26台に下落。きょうは7月の英既存店売上高が発表になっていたが、前年比で1.8%と昨年10月以来の低い伸びとなっていた。一部からは、直近の英経済指標に軟化が見られていることから、英中銀は次回9月の金融政策委員会(MPC)で、利上げを一時停止するのではとの見方も。ただ、根強いインフレ状況もあって、利上げ停止観測は時期尚早との意見もあった。
(9日)
東京市場で、ドル円は143円台前半での推移。明日の米消費者物価指数(CPI)を前に様子見ムードが広がった。昨日の海外市場ではリスク警戒の動きがやや優勢となったが、ドル円はドル買いと円買いが交錯し動きにくい展開となった。143.30付近から143.10前後まで軟化も、143.40付近に反発と方向性に欠けた。米債利回り動向も一方向には傾かず。ユーロドルは1.0952-1.0979までの狭いレンジにとどまった。ユーロ円は157円を挟んでの推移。若干動きが出たのがオセアニア通貨で、対ドル、対円で一時買われた。中国消費者物価指数のマイナス転は相場に大きな影響を与えず。中国人民銀行の中心レート元高設定や、介入と見られる中国国有銀行のドル売り・元買いなどに加え、中国当局の景気支援への期待感などが買いにつながった。NZ中銀が発表した2年インフレ見通しが前回から小幅ながら上昇したことはNZドル買いにつながった。豪ドル円は93円台半ばから一時94円台乗せ。NZドル円は86円台後半から87円台乗せでの上下動。
ロンドン市場では、ユーロが堅調に推移。前日に株安を招いたイタリア政府の銀行超過利益に対する課税について、きょうは課税額が銀行資産の0.1%を超えないとの上限を設けると表明した。銀行株が買い戻され、欧州株全般にリスクセンチメントが改善した。独仏株価指数は1%超高となっている。ドル円は143.00付近まで軟化したあと、143.40付近まで反発。ユーロ円は157円台割れでは買いが入り、高値を157.50台に更新。ユーロドルは1.09台後半で一時1.0990付近まで買われている。ただ、ポンドは対ユーロで売られた影響で、対ドルでも1.2780台まで買われたあとは1.2730付近に反落、対円は183円をつけたあとは182.50割れまで反落と上値を抑えられている 明日の米消費者物価指数発表を控えて、前日の動きに調整が入る面もあり、全般的には方向性が定まらない展開となっている。
NY市場は、ドルが底堅く推移。市場ではリスク回避の雰囲気も流れる中で、根強いドル高が続いている。ただ、明日の米消費者物価指数(CPI)の発表待ちムードもあって方向感は出にくい状況。ドル円は143円台半ばで売買交錯後に143円台後半へと水準を上げている。ユーロドルは1.10台に迫る動きがみられたが、上値は重く1.09台後半での推移にとどまった。ポンドドルは1.27台半ばから1.27台前半へと軟化。この日は主要な米経済指標発表はみられず、市場の焦点は米CPIに集まっていた。
(10日)
東京市場は、ドル円が堅調。前日海外市場で143円台前半から後半に上昇した流れを受けて、午前には前日高値を上回った。午後には一段高となり144円台を回復、7月7日以来およそ1か月ぶりの高値水準となる144.10付近まで買われた。今夜発表される7月の米消費者物価指数(CPI)を控えたポジション調整とみられる動きや、日経平均が一時300円超の上げとなった影響からリスク選好の円売りが優勢となった。ユーロ円は、午後に円安の流れを受けて上値を試し、2008年以来15年ぶりの高値となる158.38付近まで水準を切り上げた。ユーロドルは、米CPIを前に様子見ムードが広がり、1.0980前後で小動き。
ロンドン市場では、ドル売りが優勢。ドル円は144円台に乗せたあと、ロンドン時間には143円台後半へと反落。ただ、下押しの動きも限定的となっており、この後発表される米消費者物価指数(CPI)の結果を見極めたいとのムードが広がっている。欧州株や米株先物が堅調に推移しており、クロス円の上昇がドル円の下げを限定的としている面も。ユーロ円は158円台後半、ポンド円は183円台後半へとじり高の動きとなっている。ドル指数が10日線のサポートを下回るなど全般的にドル売りが優勢で、ユーロドルは1.10台乗せから1.1030付近へ、ポンドドルは1.27台前半から1.2770台へと高値を伸ばしている。米10年債利回りは4.02%台に上昇したあと、3.99%台に低下と方向性が定まらない。
NY市場では、ドル円の上値追いが続いた。この日の米消費者物価指数(CPI)は前年比+3.2%と予想+3.3%を若干下回る程度ではあったが、インフレ鈍化を示唆するには十分な内容だった。短期金融市場ではFRBの年内利上げの確率を低下させている。少なくとも9月FOMCでの利上げはほぼないと見られている状況。これを受けて為替市場では一旦ドル売りの反応が見られ、ドル円は143円台前半に下落したが、動きが一巡すると逆にドルの買い戻しが強まった。144円台後半に高値を伸ばしている。本日の米CPIは、ディスインフレ、FRBの利上げサイクル終了、そして、底堅い米経済といったソフトランディングのシナリオに沿った内容でもあり、その場合、為替市場はドル買いとの見方も根強くあるようだ。イベントを通過したことで、円キャリー取引が復活しているとの指摘も。次の焦点は8月下旬にワイオミング州のジャクソンホールで開催されるFRBのシンポジウムに。ユーロドルは一瞬1.10台後半に買われたが、すぐに切り返して売られ、1.09台後半に下落。ポンドドルも1.28台に乗せたあとは1.27台割れへと急反落した。
(11日)
東京市場は、山の日の祝日のため休場。
ロンドン市場は、小幅の値動きにとどまっている。全般に昨日の海外市場で見られたドル高の動きを受けて、ドル高圏での推移となっている。ドル円はアジア朝方に144.90近辺まで買われ、145円の大台に迫った。しかし、上値を抑えられてロンドン序盤には144.55近辺まで軟化した。その後は144.50台での揉み合いが続いており、総じて動意薄。ユーロドルはアジア時間に1.0990付近での取引が続いたあと、ロンドン序盤には1.1003近辺まで買われた。しかし、前日からの反発の動きは限定的で再び1.0976近辺まで下落。足元では1.0990台とレンジ内にとどまっている。ポンドドルは買いが優勢。日本時間午後3時に発表された英GDP指標が予想から上振れしたことが買いを誘い、1.2670台から1.2720台へと買われた。その後は買い一服も下値は堅い印象。欧州株は前日高の反動で軟調に推移。ユーロ円は159.22近辺まで買われたあとは158.72近辺まで一時下落。ポンド円は183.50付近から184.12近辺まで買われたあとは183円台後半での揉み合いとなっている。
NY市場は、この日発表の米生産者物価指数(PPI)が全体的に予想を上回る内容となったことから、為替市場はドル買いの動きが優勢となった。ドル円はアジア時間に144円台後半に上昇した後、ロンドン市場に入って144円台半ばに伸び悩んでいた。しかし、米PPIを受けて再び144円台後半に戻し、145円台を試す展開が見られた。

執筆者 : MINKABU PRESS
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