【来週の注目材料】EU復興基金の行方は?~ユーログループ&EU財務省理事会
9日木曜日にユーロ圏財務相会合(ユーログループ)、10日金曜日にEU財務相理事会が開催されます。
焦点となるのは、独仏首脳会談で最初に提起され、その後欧州委員会で提示された7500億ユーロ規模の基金「Next Generation EU(次世代のEU)」、いわゆるEU復興基金についてです。今月17日、18日にかなり久しぶり(新型コロナウイルスの感染拡大以降で初めて)に対面式で行われるEU首脳会議で、復興基金について合意するためには、これらの会合での地ならしが必要ということで、注目をかなり集めています。
このEU復興基金ですが、EUの政治・経済の中心である独仏両国から出てきた提案であるということ、とくに財政赤字に対する姿勢が厳しいドイツが前向き姿勢を見せていることなどから、当初は早期の合意に向けた期待感が広がっていました。
しかし、オランダ・オーストリア・デンマーク・スウェーデンの「frugal four(倹約4か国)」が同基金の内容に強く反対しており、合意が難航しています。
同基金では7500億ユーロのうち、5000億ユーロが補助金形式で返済不要となっています(独仏首脳会談で当初話が出た5000億ユーロ規模の基金という話はここの部分です)。4か国はこの5000億ユーロについて、財政再建などと引き換えに融資形式で実行するべきと主張して反対しています。補助金はモラルハザードを引き起こすという立場です。
6月のEU財務相会合や首脳会談では、4か国の説得が行われました。ただ、4か国としては4月に打ち出した新型コロナウイルス対策の財政措置5400億ユーロ規模の政策パッケージの決定に際して、当初の反対姿勢から譲歩したという経緯があるだけに、今回は折れる気配を示していません。
今回のEU復興基金については、EU共同債の発行をもって行うということで、EU全体の債務という形になります。結局は、財政的に余裕のあるオランダなどが、財政赤字が深刻なスペインなどの債務を事実上肩代わりする格好となるだけに、オランダなどにしても国内に対する説明がつきにくいという面もあり、合意を困難にさせています。ようは、新型コロナウイルスの感染を受けて自国が大変な時に、他国の借金まで肩代わりするのはどういうことだ、財政規律を守るために普段から努力していることで、逆に割を食うのはおかしいのではないかということです。
さらに、こうした中、ユーロ圏をまとめる立場のセンテーノ・ユーログループ議長(ポルトガル財務相)が今月13日の任期満了をもって退任する意向を先月に示し、混乱に拍車がかかっています。初代議長であるユンケル・ルクセンブルグ首相兼財務相(当時)が8年、二代目議長であるダイセルブルーム・オランダ財務相(当時)が2期5年務めただけに、三代目となるセンテーノ現議長が1期2年半で降りると考えられていませんでした。EU復興基金に向けてユーロ圏内の調整も重要となるだけに、今回のユーログループで投票が行われる次期議長人事に向けた動きも広がっています。
新型コロナウイルスの感染拡大被害が大きいうえに、財政状況がよくなく、EU復興基金を強く望んでいるイタリアなどの南欧諸国はスペインのカルビニョ副首相兼経済相を推すとみられています。アイルランドのドナフー財務相、ルクセンブルグのグラメーニャ財務相なども候補として名乗りを上げています。
ルクセンブルグは初代議長としてユンケル氏(その後2014年から昨年11月まで欧州委員長)が就任していたこともあり、票が集まりにくいと考えられており、スペインとアイルランドの争いが見込まれています。
ドナフー・アイルランド財務相がオランダなどの支持を受けて次期議長となった場合、基金への合意はさらに難しくなる可能性も。このあたりも要注目です。
今回のユーログループおよびEU財務省理事会でEU復興基金の合意に向けた動きがまるで進まないようだと失望感からのユーロ売り。前向き姿勢がはっきりすると、EU首脳会議での合意決定への期待につながり、ユーロ買いの動きが期待されるところです。
MINKABU PRESS 山岡和雅

執筆者 : MINKABU PRESS
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