パウエル講演で一時ドル高 ECBはタカ派に傾斜もユーロの上値は依然重い=NY為替概況
きょうの為替市場はNY時間に入ってドル買いが優勢となり、ドル円は一時144円台に戻している。この日のパウエルFRB議長の講演でドルは一時買いを強めた。議長は従来通りのタカ派姿勢を継続し、「インフレ抑制の任務が完了するまで一直線で行動する」と述べていた。
市場では、利上げ見通しを上方修正する動きが相次いでいるが、きょうのパウエル議長の講演はその動きを裏付ける内容ではあった。市場は、9月FOMCでの利上げ幅は0.75%ポイントとの見方を強めている。この日はエバンス・シカゴ連銀総裁の発言も伝わっていたが、その可能性が非常に高いとの認識を示していた。また、11月についても従来の0.25%から0.50%ポイントに引き上げているほか、12月については従来通りに0.25%ポイントとの見方が多くなっているようだ。予想通りならFF金利の誘導目標は年内に3.75-4.00%に到達する。FRBはインフレ対策の進展は望んでいるほど均一または急速には進んでいないと見ているのかもしれない。
前日のドル円は145円寸前まで一気に上昇したが、米国債利回りの低下もあって、145円台に乗せることなく一旦伸び悩んでいる。先週末に140円台に乗せ、その後も急速に買われていただけに、一服感も出ているようだ。ただ、流れは上向きで変化はなく、下値ではファンド勢や投機筋の買いが活発に入っている模様。145円台を視野に入れた動きは継続しているようだ。
ユーロドルはNY時間に入って戻り売りが強まり、一時0.99ドル台半ばまで下落。ECBはこの日の理事会で0.75%の大幅利上げを実施。ECB発足以来の大幅利上げとなる。ECBは追加利上げの可能性も示唆し、インフレの状況によっては、来月も0.75%ポイントの利上げが実施される可能性を理事たちは考慮しているとの報道も伝わっていた。
ECBはよりタカ派に傾いた印象だが、いまのところユーロの上値が重い状況に変化はない。ECBは2023年初めまでに中銀預金金利を1.75%まで引き上げると見込まれているが、その後はリセッション(景気後退)が明らかになるにつれて、利上げを休止する可能性が高いとの指摘も聞かれる。FRBや英中銀ほど利上げサイクルの頂上は低いと見られている。
市場からは、1.75%ではインフレを目標の2%に戻すには不十分で、4.00%まで引き上げる必要があるとの指摘も出ている。しかし、現段階ではECB理事の過半数の賛同を得られそうにはなく、FRBや英中銀との格差は拡大したままの可能性が高いとの指摘も出ている。
ポンドドルも戻り売りに押される展開。一時1.1460ドル付近まで下落する場面が見られた。きょうはトラス英首相がエネルギー価格保証策を発表。発表直後はポンド買いの反応も見られていた。10月から2年間、一般家庭のエネルギー料金の支払いを年間2500ポンド(約41万円)以下に抑え、年間約1000ポンド(16万5000円)の負担が軽減されるという。また、政府は英中銀と共同で、エネルギー企業が価格変動に対処するために必要な流動性を確保するため、最大400億ポンド相当のスキームを立ち上げるとも発表した。
インフレ抑制に大きく貢献し、英経済にとってはポジティブな内容ではあるが、市場からは、資金をどう賄うかがなお不明で、財政面の不安も指摘されている。場合によっては、市場の信頼にとって重要な問題を呼び起こし、英国債利回り急上昇とポンド急落という憂慮すべき事態が発生する危険性も指摘されている。なお、英財務省が今月末にこの計画の推定コストの詳細を説明する予定。
MINKABU PRESS編集部 野沢卓美
執筆者 : MINKABU PRESS
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