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「コロナ禍の中、アジェンダなき選挙戦」ジャーナリスト 中岡望 米大統領選2020

マネ育チャンネル 

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 本来、この時期になるとアメリカのメディアは大統領選挙を巡るニュースで埋まっているはずである。だが今年は新型コロナウイルスの感染拡大、それに伴う経済の深刻な不況への突入、さらに白人警察官による黒人殺害事件で表面化した黒人に対する人種差別問題でアメリカ社会は大きく揺れ、大統領選挙の影が薄くなっている。民主党はジョー・バイデン前副大統領が8月の民主党全国大会を待たず大統領候補者に内定したことで、本来なら盛り上がるはずの州での予備選挙は4月以降、ほとんど注目されることはなくなった。早々と大統領候補が決まったことで、民主党支持者の大統領選挙に向けての盛り上がりはあまり感じられない。

 他方、再選を目指すトランプ大統領も選挙に向けての遊説を中止するなど動きは鈍い。さらに共和党全国委員会は、今回の党全国大会で政策綱領の採択を見送る方針を出すなど、異例の大統領選挙への対応を見せている。アジェンダ(政策課題)設定は選挙の帰趨を決するほど重要である。政策綱領がなければ、党として国民に何を訴えるかわからないので、候補者として選挙は戦えない。ただ、トランプ大統領が二期目に向け、具体的な政策を持っているようには思えない。

 今回は世論調査をベースに大統領選挙の状況分析を行う。各世論調査の平均を示すRealClearPoliticsの平均値の数字(6月2日から11日)を見てみる。それによると、新型コロナウイルスの感染問題が注目される前まで、順調な景気回復を背景にトランプ大統領の支持率は年初から回復に向かい、4月初旬には約47.3%(不支持率は49.5%)と順調に推移していた。だがトランプ大統領は、新型コロナウイルスはインフルエンザと変わらないと楽観的な見通しを繰り返し述べ、対策に後れを取ったことで、支持率は急速に低下し始め、6月14日の支持率は42.4%と4月比で5ポイント低下している。不支持率は55.1%へ上昇。ちなみに支持率が最低だったのは2017年12月の37.0%である。その時の不支持率は58.1%であった。

 個別の調査を見ると、Morning Consultの調査(6月7日)では支持率39%に対して不支持率は58%と、その差は実に19ポイントにも達している。二期目を目指す大統領の支持率は低いのが普通であるが、トランプ大統領の平均支持率は歴代大統領で最低部類となっている。

 ただ全国的な支持率と不支持率の動向だけで大統領選挙の結果を予想することはできない。対抗馬であるバイデン副大統領との比較でみてみる必要がある。RealClearPoliticsの9つの世論調査の平均値(5月28日から6月9日実施分)では、バイデン支持が49.7%、トランプ支持が41.7%であった。7つの調査すべてでバイデン候補の支持率がトランプ大統領をリードしている。特に差が大きかったのはCNN調査で、バイデン支持が55%、トランプ支持が41%で、その差は14ポイントとバイデン前副大統領が大きくリードしている。これを見る限り、大統領選挙ではバイデン前副大統領が圧勝する可能性が強いと思われる。ただ、こうした全国調査の予想精度は必ずしも高くない。2016年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン候補が世論調査での支持率でトランプ候補を圧倒していた。多くの専門家もクリントン勝利を予想していたが、結果はトランプ候補の勝利となった。

 アメリカの大統領選挙は“間接選挙”である。2016年の大統領選挙での候補者の総得票数を見ると、クリントン候補が5585万票(得票率48.2%)で、トランプ候補の5298万票(得票率46.1%)を上回っていたが、各州から選ばれた選挙人の獲得数ではトランプ候補の304票に対して、クリントン候補は227票に留まった。選挙で勝利するには、獲得選挙人の数で上回らなければならない。より多くの州で勝つ必要がある。さらに言えば、大統領選挙ごとに支持政党が変わる「swing states」あるいは「battle ground states (激戦州)」の動向が最終結果に大きく影響する。激戦州と言われるのは、フロリダ州、ペンシルベニア州、ウイスコンシン州、ノース・カロライナ州、アリゾナ州などがある。大統領選挙の結果は、これらの激戦州の動向で決まるといって過言ではない。2016年の選挙では、トランプ候補がより多くの激戦州を制したことで、総得票数で負けても、選挙人数で勝って当選を果たすことができた。

 では、今年の大統領選挙では激戦州はどう動くのだろうか。先に指摘した5つの州のうち、トランプ大統領がバイデン候補をリードしているのはノース・カロライナ州だけである。その差はわずか0.3ポイント(トランプ支持45.8%、バイデン支持45.5%)に過ぎない。全国、激戦州の2つの世論調査を見る限り、大統領選挙はバイデン有利に進むと思われる。

 だが、これだけでは十分な選挙結果の予想はできない。アメリカの政治は両極化しており、民主党支持者と共和党支持者はまったく相いれない関係にある。YouGovの調査(6月11日)でみると、民主党支持者の87%がトランプ不支持である。共和党支持者の86%がトランプ支持なのである。共和党支持者のトランプ大統領に対する忠誠心は極めて高い。宗教的なキリスト教原理主義者といわれるエバンジェリカルのトランプ大統領への信認は厚い。いろいろなスキャンダルにも拘らず、トランプ大統領の最大の支持基盤となっている。白人至上主義者も同様にトランプ大統領支持に変わりはない。新型コロナウイルス処理で不手際があっても、黒人に対する人種差別問題で不適切な対応をしても、共和党支持者のトランプ大統領支持は微動だにしていないのである。人種的にいえば、白人の49%がトランプ大統領を支持。不支持は47%で、白人のトランプ大統領評価は完全に二分化されている。他方、黒人はバイデン支持層の中核をなすが、トランプ不支持は75%、支持は24%に過ぎない。にも拘わらず世論調査で変化がみられるのは、無党派層がトランプ離反を強めているためと予想される。無党派層のトランプ支持は38%、不支持は53%である。こうした層は、状況の変化で対応を変える。かりに11月の選挙の時、新型コロナウイルス感染が収まり、景気が回復に向かっておれば、選挙行動を変える可能性がある。黒人差別反対運動はアメリカ国内に留まらず、世界に広がっている。だが、人種差別問題を解決するのは容易ではない。11月まで、どのような展開を示すかで、選挙への影響が変わってくるだろう。

 もうひとつ注目すべき調査がある。それはCNN/SSRSの調査である。同調査によれば、バイデン支持者の60%は、バイデン前副大統領に投票する理由はトランプ大統領に反対だからだと答えていることだ。必ずしも積極的にバイデン副大統領を支持しているわけではないのである。逆にトランプ支持者の70%はトランプ大統領を支持しているのでトランプ大統領に投票すると答えている。バイデン副大統領が嫌だからトランプ大統領に投票すると答えて回答者は27%に過ぎない。トランプ大統領は依然として極めて強固な支持層を持っているのである。

 バイデン前副大統領は、民主党のエスタブリッシュメントの支持を得て大統領候補の座を手に入れた。民主党支持者の圧倒的な支持を得て、大統領候補になったわけではない。ウォーレン上院議員、サンダース上院議員の左翼よりの政策を懸念したエスタブリッシュメントが、バイデン前副大統領支持で結集した結果である。オバマ大統領が若者層の熱狂的な支持を得て、“ムーブメント”を起こして当選した時とは状況はまったく違う。バイデン前副大統領はムーブメントとは最も遠い政治家であるし、政策的にも魅力的なアジェンダ設定を打ち出せない。バイデン前副大統領は、左派勢力は若者の支持を得るために副大統領候補に女性を指名すると明言している。当初は若者層に人気がある左派のウォーレン上院議員が最有力候補と言われていたが、黒人差別問題で活発な活動を展開する「ブラック・ライブズ・マッター」に対応して黒人女性を選ぶべきだとの声が強くなっている

 前回も書いたが、株式相場は乱高下が続いている。これまでの相場はコロナ相場であった。経済活動が再開され、市場は不況の深刻度、企業業績に注目した展開になるだろう。景気のV字回復は期待できないと思われるので、株式市場は今後、大きく下方に調整される局面がみられるだろう。ただ、為替相場の観点からいえば、特定の通貨に積極的に投資する状況にはない。円ドル相場でみても、この数か月の動きから離れた相場展開にはならないだろう。

f:id:gaitamesk:20050928094155j:plain中岡 望 氏
ジャーナリスト、元東洋英和女学院大学副学長 国際基督教大学卒。
東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て1973年東洋経済新報社に入社。『週刊東洋経済』編集委員、『会社四季報』副編集長などを務め、2002年退社。フリーのジャーナリストへ。 1981~82年フルブライト・ジャーナリスト、ハーバード大学ケネディ政治大学院フェロー。1993年、ハワイの大学院大学イースト・ウエスト・センターのジェファーソン・フェロー。2002~03年、ワシントン大学(セントルイス)ビジティング・スカラー。東洋英和女学院大学教授(国際経済学、公共選択などを担当)、同大学副学長を経て、2016年より現職。ジャーナリストとしても、様々なメディアに寄稿、本の執筆、講演活動を展開。
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