「ドルは売られて当然」江守 哲氏 新型コロナショック
ドルは売られて当然
コロナ禍が収まらない中、世界的に経済活動の再開が進む一方、感染拡大第2波への懸念が高まっている。その一方で株価は堅調さを取り戻している。経済環境と株価の乖離が大きく、株価上昇の持続性への疑念が高まっているが、主要国の財政出動と中央銀行の資金供給が株価を支えている。特に、世界最大の経済大国である米国の財政出動とFRBによる資金供給量は他国を大きく上回っており、これが経済や金融市場に安心感を与えている。しかし、この状況が続けば、この先は見えている。「ドル安」である。そして、その兆候はすでに表れ始めているようである。
新型コロナ感染拡大に加え、米中対立の激化への懸念も強まっている。米国がテキサス州の中国総領事館を閉鎖させ、中国は米国に対し、四川省成都にある総領事館の設立許可を取り消した。米中対立は、これまでの貿易協議から大きく踏み込んだものになっている。つまり、経済的な対立ではなく、イデオロギーの対立に深化している。ポンペオ米国務長官は23日の演説で、主要国に対中国包囲網を呼び掛けた。これに対して、中国は「ポンペオ演説は過去50年近くの対中政策を反転させる凶暴な姿を示した」と酷評している。両国の対立はさらに根深くなっている。
一方、米議会では新型コロナウイルスの感染拡大に対応する追加経済対策で与野党の意見が対立している。与野党の話し合いも紛糾しており、追加の支援策が決まるかどうかは不透明である。また、FRBは29日のFOMCで、事実上のゼロ金利政策と量的緩和の維持を全会一致で決めた。新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う景気回復の失速を警戒する発言を行っている。そのうえで、「経済を支えるためあらゆる手段を使う」と、9月の追加策決定に含みを残している。いずれにしても、今後も緩和策は続くことになる。
現状を分析すれば、ドルが売られ、その他の主要通貨が買われるのは当然である。これまでは、株価が下げるとリスク回避でドルも買われていたが、そもそもおかしな話である。ドルの返済を迫られている投資家はドルを買う必要があるだろうが、そうでなければドルは買われなくなる。そうなれば、ドルは下げるしかない。それがいま起きていることであろう。
このように、米中銀は緩和策を継続し、さらなる追加の可能性を示唆している。米政府も追加支援策を行う方針である。コロナ禍を契機に、ドルの供給はこれまで以上に膨れ上がるだろう。市場もそれを見越してか、ドル安傾向がより鮮明になっている。ドル指数は下落し、その代わりに買われているのはユーロと金である。コロナ禍で打撃を受けた経済の立て直しに向け、EUが追加の復興基金案で合意したこともユーロ買いを誘っている。また、金にはブームとも言える巨額の資金が流れ込んでいている。この傾向も止まらないだろう。
ドル安傾向は今後も続かざるを得ないだろう。ドルは今後も上下動しながらも、徐々に水準を切り下げていくことになりそうである。
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