<特集・世界の通貨>歴史は変わるのか?岐路に立つドルペッグ~香港ドル
はじめに
中国の特別行政区である香港とマカオは、いわゆる一国二制度の下、独自通貨を採用しています。香港ドルとマカオ・パカタです。ちなみに両通貨は基本的に同レート。マカオでは普通に香港ドルが使えます。
イギリスの植民地時代から利用されてきた香港ドルですが、一つ大きな特徴があります。固定相場制の一つであるドルペッグ制を採用しているのです。
これは、米ドルに対する香港ドルの交換レートを固定もしくはある程度の幅の中に収めるというもの。日本も昔1ドル=360円の固定相場制の時代がありましたが、同じようなものだと考えてください。
1993年にドルペッグ制がスタートした時は1ドル=7.8香港ドルの固定相場制でしたが、2005年5月から現行の1ドル=7.75-7.85香港ドルのレンジが定められ、その中での取引となっています。
しかし、このドルペッグ制度、今後の存続に向けて岐路に立っています。
固定相場制の問題点
その前に、固定相場制の持つ問題点について整理してみましょう。日本をはじめ、多くの国では変動相場制を採用しています。そのため、やれ円高だ~輸出企業が大変だ~、円安だ~ガソリンの値段が~など、為替市場の変動によって経済が大きな影響を受けます。ならば、香港のようにある種の固定相場制を採用すればいいのではとの考え方があります。しかし、国際金融のトリレンマを考えた時、固定相場制には大きな問題があります。
国際金融のトリレンマとは、次の3つを同時に満たすことはできないというものです。
1、 固定相場制
2、 資本移動の自由
3、 金融政策の自由
以上の3つです。なぜだとおもいますか。1.2.を実施したうえで、金融政策を自由にすると、金利が高い通貨に一気にお金が流れていきます。当たり前ですね、為替差損の可能性がなく、片側の方が高金利で利子収入が多いとなれば、お金はそっちに行きます。正確には通貨としての信頼性、流動性その他のファクターもありますので、ぴったり同じだと、経済基盤的に弱く国から強い国にお金が流れます。
このため、多くに国では固定相場制をやめて、変動相場制を採用。香港の場合は、金融政策の自由をあきらめ、米国が利上げをすると、次の日に自動的に利上げを実施し、常に0.25%だけ金利が高い状況を維持しています(0.25%が通貨としての信用力の差です)。
状況が難しくなった香港ドル
しかし、ここにきてこの方式が通用しなくなってきています。
ドルペッグ制でのレンジは7.75-7.85となっていますが、こうした制度の場合、基本的には自国通貨高を抑制するために制度を利用しており、ドル香港ドルも、レンジ下限(ドル安香港ドル高)である7.75近辺での推移が一般的でした。
しかし昨年以降ドル高香港ドル安が進んでおり、4月に入ってついに7.85の上限(ドル高香港ドル安)を付ける動きとなっています。
利上げサイクルに入っている米国に対して、香港の政策金利は追随しているものの、市中金利がついていけず、資金流出を招いているのです。経済成長が著しい中国本土からの資金の流入が見られ、香港の市中の流動性が十分に確保されている状況で、市中金利が上がり切れていません。政策金利との連動性が低い長期金利などは米国の方がかなり高い状況。短期金利も香港市中金利の低迷が目立っており、資金流出の動きが続いています。
12日には、香港の金融政策を司る香港金融監督局(HKMA)が目標レンジ設定後初めてとなるレンジ維持のためのドル買い香港ドル売り介入を実施。かなりの規模の介入を連日実施したことで、短期金利も上昇を示すなど、通貨当局による制度維持への懸命な姿勢から、一時に比べ香港ドル売りは落ち着いてきましたが、根本となる米ドルの方が高金利という状況がまだ継続しており、状況は相当に厳しいです。
どこかのタイミングでドルペッグ制の終了は十分にあり得そう。ドルペッグ制のスタートから25年。大きな変動が見られるかもしれません。