とれんど捕物帳 FRBは飛ばし過ぎたのか!
今週のドル円は買い戻しが続き、111円台後半まで一時上昇する場面が見られた。200日線を上回って来ており下値の底堅さも見られることから、来週以降も期待したいところではある。先週は米10年債と3ヵ月物の逆イールドが発生し、市場は景気後退への懸念を強めていた。ただ、今週はそれも解消し、株価上昇と伴にドル円もサポートされたものと見られる。
米10年債と3ヵ月物の逆イールドは先行きの景気後退を示すシグナルと捉えられている。NY連銀がその逆イールドから毎月、1年後の景気後退の確率を算出している。3月分のデータでは2020年3月までの景気後退の確率を27.02%と弾き出している。これはリーマンショック前の2007年7月以来の高水準である。素直に取れば先行きは暗そうだが、米株式市場の動きを見ると市場は米経済の先行きに対して、NY連銀の算定値が示すほど悲観的に考えてはいないように思われる。
ダウ平均はクリスマス明け以降、上値追いが続いており、昨年10月からの下げを大方取り戻しつつある。米中貿易協議の進展期待を材料にして昨年10月の史上最高値を視野に入れる展開だ。ドル円もそれに追随しているといったところであろう。いまのところ市場は、米経済は景気減速はするが、景気後退まではまだ先と見ているのかもしれない。FRBの金利コントロール次第で、景気はまだ持つと思っている節もあるようだ。
そのような中で、今回の米10年債と3ヵ月物の逆イールドをどう見るべきなのか。3ヵ月物は通常、FRBの金融政策と米財務省による財政のファンディングの影響を色濃く受ける。一方、長期の10年債はインフレ期待や、世界的な資金還流、そして、世界全体の経済動向の影響を受ける。実際、今週は欧州債の動きが米国債をリードする場面も見られた。
3ヵ月物はFRBが利上げに積極的だった中、トランプ大統領の財政拡大策による供給増から価格が下がり利回りを押し上げる。一方、10年債はインフレ期待が2%程度で落ち着いている環境下で、中国や欧州など世界経済が不安定なことから米国債への需要が増え利回りを押し下げる。それが次第に、米10年債と3ヵ月物の利回り格差を縮め、逆イールドに至ったとも考えられる。従来のように単純に景気後退見通しによるものではないのかもしれない。
ECBや日銀、英中銀など他国がトンネルから抜け出せない中、他国との比較の中で、FRBは飛ばし過ぎたのかもしれない。実際、FRBが慎重姿勢に急速に方向転換して以降、市場の調子は良い。中国や欧州、日本が盛り上がればよいのだが、それも期待薄だ。米財政も既に確定している。この局面を乗り切れるのはFRBしかいないようだ。
なお、上記の通り米財政拡大の要因もあるので、トランプ大統領がパウエルFRB議長に文句を言うのは筋違いなのかもしれない。
さて来週だが、米中貿易協議も去ることながら何よりも好調な米経済指標が待たれるところではある。
ただ、来週は米消費者物価指数(CPI)などインフレ指標のみなことから、それについては再来週以降となりそうだ。材料としてはFOMC議事録の公表を注目したい。ある意味市場予想に反してFOMCメンバーは、年内の金利据え置きを予想していた。その辺の詳細が示されるか注目したい。ハト派な雰囲気が広がるようであれば、ドル売り圧力からドル円はネガティブな反応も想定されるが、株式市場の反応次第では、今週のように底堅さは維持することも期待される。
ECB理事会やEU首脳会合なども予定されている。ECB理事会ではマイナス金利政策の副作用を軽減するため、マイナス金利を導入している預金金利の階層的設定が検討されているとの報道も流れている。もし、これが導入されれば、年間70億ユーロ超に及ぶ銀行によるECBへの支払い負担が一部軽くなる。ただし、その場合は長期間に渡って金利を低水準に留めることを示唆することにもなるとの見方もあり、ユーロにとっては圧迫要因と見られているようだ。打ち出してくるかは未知数だが、いずれにしろ注目ではある。
英EU離脱を巡っての動きが来週も注目だが、カオスの状態に入っているので何が起きてもおかしくはない。ポンドは手出し無用といったところかもしれない。
なお、来週の米大手銀を皮切りに米企業決算が開始する。米大手銀に関しては債券トレーディングの不調から、冴えない決算も想定されるが、既に銀行株はそれを織り込んでいる面もあり、悪材料出尽くし感が出る可能性も期待される。
来週のドル円だが、上値には慎重だが底堅さは維持する展開を期待したい。予想レンジとしては、110.50~112.50円を想定。スタンスは「やや強気」。
()は前週
◆ドル円(USD/JPY)
中期 中立継続
短期 →(↓↓)
◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓(↓↓)
◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下から中立へトレンド変化
短期 →(↓↓)
◆豪ドル円(AUD/JPY)
中期 下から中立へトレンド変化
短期 →(↓)
◆ユーロドル(EUR/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓↓)
◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 中立継続
短期 ↓(↓)
minkabu PRESS編集部 野沢卓美
執筆者 : MINKABU PRESS
資産形成情報メディア「みんかぶ」や、投資家向け情報メディア「株探」を中心に、マーケット情報や株・FXなどの金融商品の記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコンテンツなど幅広く提供しています。