【来週の注目材料】非農業部門雇用者数は2010年来のマイナス見込み、より大きな悪化への始まりに＜米雇用統計＞

　3月26日に発表された最新の週間新規失業保険申請件数は328.3万件と、それまでの20万件台の数字から一気の悪化を記録しました。リーマンショックの影響を受けた2009年3月の66.5万件や、第2次オイルショックの影響を受けた1982年10月の69.5万件をはるかに上回り、過去最悪の記録となりました。

　新規失業保険申請件数は、本来それほどのブレがない指標で、今年に入って20万件から22万件のレンジでの推移が、今月初めまで続いていました。
3月に入って米国内での新型コロナウイルスの感染拡大が広がったこともあり、3月19日発表分が28.2万件(速報時点では28.1万件)と、その前週の21.1万件から拡大していました。さらにここに来て米国内での感染被害が急速に拡大。ニューヨーク州やカリフォルニア州などで基本的な外出を禁止し、食料品や薬局などの生活必需品を除いた店舗やビジネスを閉鎖するロックダウンが進みました。多くの企業や店舗が休業となる中で、レイオフの動きが広がりました。
これを受けて26日の同指標は事前予想値時点で170万件と、一気に悪化するとの見通しが広がっていました。結果は予想をさらに大きく超える悪化となり、米国の労働市場が一気に深刻な状況に陥っていることが印象付けられました。

　こうした状況の中、4月3日に3月の米雇用統計が発表されます。注目度の高い非農業部門雇用者数(NFP)は、1月、2月ともに前月比27.3万人増と、かなりの高水準を記録しており、従来の米雇用市場の堅調さを印象付けました。もっとも2月の雇用統計後の市場の反応はほとんど見られませんでした。2月の後半以降、雇用状況が急速に悪化していることが分かっていただけに、市場は強い数字に反応しにくくなっていました。

　そうした後を受けて今回の数字ですが、前月比10万人減が見込まれています。前回から一気の悪化です。予想通り雇用者数が前月比でマイナスになると、リーマンショック後の影響から不安定な状況が見られた2010年9月の6.5万人減以来となります。水準的には2010年6月の13.9万人減以来となります。

　もっとも市場の反応としては微妙なものとなる可能性があります。雇用統計は月次の数字とは言え、計測自体は12日を含む週の数字となります。3月で見ると3月8日から14日です。先の新規失業保険申請件数で言うと28.2万件まで増加した週にあたります。米国の多くの地域でのロックダウンが進み、レイオフが加速したのが翌週以降。その次の週に、新規失業保険申請件数が328.3万件と急速に状況が悪化していることが分かっており、非農業部門雇用者数も10万人程度ではない大きな減少が見込まれるだけに、今回の数字でどこまで反応していいのかという部分があります。

　リーマンショック時の非農業部門雇用者数は、2009年3月の80万人減が最も弱い数字。リーマンショックの前、サブプライムショック以降の影響もあって2008年2月から雇用者は減少に転じ、同年9月のリーマンショックを経て2009年10月まで雇用減が続きました。その後は増加と減少が交錯する状況を経て、2010年10月以降は雇用増が続いています。

　今回はロックダウンが進み、多くの企業・店舗がいきなり営業停止を余儀なくされていることもあり、リーマンショックの時よりもはるかに急速で大規模な雇用減が見込まれています。

　セントルイス連銀のブラード総裁などは、今回の事態を受けた雇用市場について、4600万人の失業もありうると発言しました。そうした意味でも今回の雇用統計はマイナスが濃厚とはいえ、悪化の始まりでしかないという印象です。
失業率の見通しは3.8%と0.3%ポイントの大きな悪化ですが、こちらも同様により大きな悪化が今後見込まれます。
歴史的な雇用鈍化の可能性が高い状況だけに、その始まりとなる今回の数字。相場への影響は微妙でも要注目です。予想よりも良かった場合の反応はそれほどないと思われますが、今回の時点で予想をさらに超える悪化となっていた場合は、ドル売り円買いの反応も見込まれます。

MINKABU PRESS　山岡和雅