とれんど捕物帳 またまたFRBの“株主対策?”への期待高める
今週は米株式市場がようやく下げ止まり、セルインメイも一服している。米中対立は依然として情勢が混沌としており出口が見えてこない。市場も半ば諦めぎみなのか、長期化を決め込んでいるようだ。市場はそのような中、またまたFRBの“株主対策?”への期待を高めている。市場は総会屋並のパワーで株式を売り込み、米国債利回りと原油を押し下げ、FRBに答えを求めているようだ。実際、昨年終盤にもこれで不安定な動きが収まっており、FRBは量的緩和縮小を停止することを決定していた。
金曜日に米雇用統計が発表になっていたが、非農業部門雇用者数(NFP)が7.5万人増と予想を大きく下回ったほか、平均時給も前年比3.1%と前回から鈍化した。NFPが極端に低い数字であることから、特殊要因の可能性もあるが、明らかに弱い内容ではあった。今回の米雇用統計を受けて市場では、0.5%の大幅利下げのほか、7月利下げの可能性までも指摘されている。
一方、米10年債利回りは2.05%まで低下。昨年11月には3.2%まで上昇していたが、半年の間に1%以上低下した。ただ、イールドカーブはスティープ化が見られている。もっとも、スティープ化と言ってもブル・スティープ化で、10年債など長期ゾーン以上に、政策金利に敏感な2年債など短期ゾーンの低下が激しく、それによってイールドカーブがスティープ化している状況。教科書的には景気の先行きに不安感が台頭する中で、市場がFRBの利下げ期待をかなり強めていることを示している。
当のFRBの方も、市場の期待を強くけん制する言動も見られてない。今週はパウエルFRB議長を始めとしたFOMCメンバーの発言が幾つか伝わっていたが、議長は、必要なら適切に対処する姿勢を示していた。利下げ期待を追認はしていないが否定もしていなかったことから、市場も敏感に反応たようだ。
ファンダメンタルズ的には年内の米利下げを正当化する状況にはない。直近の米指標はまちまちではあるが、景気減速を強く示唆しているものはない。都合が良いのか悪いのか、コアPCEデフレータがFRBが目標としている2%から下方乖離している。FRBは一時的要因として位置づけているが、市場は「これを使って予防的な利下げを実施しろ!」と言わんばかりの雰囲気になっている。
なお、FRBの“株主対策”については以前も述べたが、特に米国の場合、米家計が保有している金融資産のうち株・投資信託の割合は48%となっている。株式や投資信託を保有している世帯の割合もかなり高めだ。株急落が家計の消費に対するセンチメントに影響しないはずがない。GDPの約7割を占める米個人消費が失速すれば、ほぼ間違いなく景気も失速だ。おそらく世界経済もであろう。リーマンショック以降のFRBの金融政策は、バーナンキ及びイエレン議長とも、景気対策というよりも株主対策と位置づけたいくらいだったが、道徳的にはどうかわからないが、政策としては合理的なのかもしれない。
話は為替に移すが、ドル円は107円台まで一時下落した。ただ、リスク回避の円高が一服し、下値は踏ん張っていたようで108円台は維持している。ただ、今度は、米利下げ期待に寄るドル売りが上値を圧迫し浮上する気配はない。一方、108円を割り込むと買いも入るようだ。108円は2017年以降、何度となく強いサポートになっていたが、その水準で日本の機関投資家がクーポンレートは3%の不動産担保証券(MBS)を大量に購入していたとのニュースも流れていた。105円のレベルでは更に日本の機関投資家による買いが期待できるという。
市場の期待通り、FRBの“株主対策”で株式市場が底堅く推移し適温相場に戻せば、ドル円の浮上も期待できそうだが、現状では現行水準でもみ合うのかもしれない。
目先はメキシコ関税の動向次第であろう。この執筆時点では米国とメキシコの協議の結果が伝わっておらず、その結果待ちだが、この問題は関税発動ではあるが、米中対立とは違う。あくまで不法移民対策の強化を求めているのであって、構造改革の要求でも覇権争いでもない。
メキシコも大変だ。自国民ならまだしも、ホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、そして、ベネズエラといったメキシコ以南の国からの不法移民が多いのが実情のようだ。メキシコはあくまで米国までの経由地の意味合いが強く、米国に流さなければ、自国に滞留してしまう。人道的な面もあり、難しい対応が迫られているが、何らかの対策が出るものと思われる。いずれにしろ中国とは違う。
さて来週だが、米国とメキシコの協議の行方次第だが、セルインメイの巻き戻しの流れは来週も続くことを期待したい。米経済指標では小売売上高や米消費者物価指数(CPI)の発表が予定されているが、弱い内容だったとしても利下げ期待を追認することから、流れに変化はないであろう。むしろ、週末に発表される中国の経済指標がリスクかもしれない。ドル円は底堅い推移を期待したいところではあるが、上値は重いことも想定される。
また、メイ首相が英保守党党首を辞任したことから、党首選が行われる。事実上の次期首相選びだが、来週は保守党下院議員による第1回投票が予定されており注目される。市場は再び「合意無き離脱」のリスクを高めており、それに呼応するような結果であればポンドもネガティブな反応を示しそうだ。いずれにしろ、ドル売りの流れがあるものの、現状からはポンドは積極的に買えそうにない。
ドル円の予想レンジとしては、107.50~109.50円を想定。基本的には108円台を中心としたレンジ相場を想定する。トレンドは下のままだが、スタンスは「中立」を維持したい。
()は前週
◆ドル円(USD/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(→)
◆ユーロ円(EUR/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓↓)
◆ポンド円(GBP/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓↓↓(↓↓↓)
◆豪ドル円(AUD/JPY)
中期 下げトレンド継続
短期 →(↓)
◆ユーロドル(EUR/USD)
中期 下から中立へトレンド変化
短期 →(↓↓)
◆ポンドドル(GBP/USD)
中期 下げトレンド継続
短期 ↓(↓↓↓)
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次回の配信は6月22日(土)の午前を予定しています。ご了承ください。
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minkabu PRESS編集部 野沢卓美
執筆者 : MINKABU PRESS
資産形成情報メディア「みんかぶ」や、投資家向け情報メディア「株探」を中心に、マーケット情報や株・FXなどの金融商品の記事の執筆を行う編集部です。 投資に役立つニュースやコラム、投資初心者向けコンテンツなど幅広く提供しています。