Turning the screws ー金融政策の舵の切り替えー

【著者】

アメリカが 12 月にようやく利上げに踏み切ったことで、世界の外国為替相場の先行きは FRB の新たな利上げペースにかかっています。素直に見れば、米ドル高が予想されます。

 2015 年暮れに、米連邦準備制度理事会 (FRB) が 9 年ぶりに政策金利を引き上げたことでパラダイムシフトが起きました。ジャネット・イエレン議長率いる FRB は、2015 年に入って金融政策の先行きを示すファワードガイダンスの中で何度も見通しを誤ってきましたが、12 月に開催した連邦公開市場委員会 (FOMC) でようやく政策変更を決定しました。
2016 年に関する FRB の見通しは、今後の FOMC 会合のたびに平均で 0.25% ずつ利上げをしていくことを示唆しているように受け取れます(ただし、現在の FRB はアラン・グリーンスパン議長時代の後半に実施された「機械的」引き締めには嫌悪感を示しています)。

 FRB が金融政策の正常化に向けて動き始めたことで、世界市場とすべての通貨の先行きが FRB の新たな利上げと利上げに関する市場予測にこれまで以上の影響を受けるのは必至です。

 市場は、2015 年後半の大半を通して、FRB の新たな利上げサイクルに関して、予想される利上げ幅の大きさに関係なく、神経質に反応してきました。新興国市場も神経質に反応したことでは例外ではなく、なかでも資源国通貨であるロシアルーブルとカザフスタンテンゲ、政治・経済の混迷が続く南アフリカランドはいずれも大幅な下落を記録しました。

 欧州中央銀行 (ECB) 政策理事会は 2015 年 12 月会合で、ECB 預金金利をマイナス 0.2% からマイナス 0.3% に0.1 ポイント引き下げ、資産買い入れプログラム期限の半年間延長を決定しました。
しかし、市場が期待していた資産買い入れ拡大が見送られたために投資家は猛反発しました。それも無理はありません。資産買い入れ拡大を想定してユーロ (EUR) ショート/米ドル(USD)ロングのポジションを組んでいた投資家は修羅場に直面したからです。

 12 月理事会決定とユーロ圏景気に緩やかな回復の兆しが見えてきたことから、サクソバンク予測チームは、ECB 量的緩和が 2017 年 3 月以降に終焉を迎える可能性が浮上してきたと判断しています。利下げサイクルが終わりに近づいているという点では、オーストラリア準備銀行(中央銀行)、ニュージーランド準備銀行(同)もそれぞれの金融政策に関するフォワードガイダンスにおいて中立的な判断を示すようになってきています。

 世界の準備通貨・米ドルの元締めである FRB が金融引き締めモードに転換し、特に他の主要国の中央銀行も金融緩和から舵を切り替えることが予想されます。そのため、世界的に流動性が低下し、2016 年にはすべての資産クラスでボラティリティがこれまでよりずっと高くなると予想しています。

 そうした状況下にあって、市場は新しく発表される経済指標に敏感になります。一方で、経済ファンダメンタルズが改善している国は主要国の中央銀行が金融引き締めに転じても対応に苦慮することはないはずです。
新たな金融環境のなかではリスクオン・リスクオフの判断より、金融引き締めの信用サイクルへの影響がフォーカスされると予想しています。その信用サイクルは、後述のように、主要 10 カ国(G10)では国ごとにばらつきが見られます。

 FRB の利上げや ECB の量的緩和拡大の見送りが、2016 年を通して、過去最悪の経常赤字を抱える新興国の経済運営にさらに影響を及ぼすことは避けられません。とりわけ、南アフリカランド(ZAR)やトルコリラ(TRY)については、それぞれの国のファンダメンタルズに改善が見られなければ、より大きな圧力に曝され続けることになります。新興国が抱える問題は当然、国ごとに異なるため、それぞれの国には独自性を発揮して低迷から抜け出す努力が求められます。
その努力を怠る新興国は市場の信頼を失うだけです。たとえば、インドは、メキシコとは全く異質の問題に直面しており、またロシアのように資源に依存することはできません。

 中国の通貨切り下げは予測が難しいテーマです。中国人民銀行(中央銀行)は 2015 年 12 月に 13 通貨で構成する新しい「人民元(RMB)指数」を発表しました。これにより、米ドル高がさらに進む場合、人民元を大幅に安くする手段を中国が得たことになります。貿易加重ベースにより中国に有利な形で為替レートの安定化を図れるわけです。第 1 四半期に対米ドル(USDCNY および取引可能なオフショア通貨ペアの USDCNH)で 2~3% の人民元安を予想しています。

《G10 通貨の 2016 年動向予測》

強い通貨

米ドル (USD)

― FRB が世界金融危機以来続けてきた異次元の金融緩和策を終わらせたことは間違いなくドル高要因です。大事なことは、アメリカの景気回復の力強さです。回復がしっかりしたものであれば、フェデラルファンド(FF) 金利が 0.50%でも1.50%も関係ありません。第 1 四半期に労働市場がさらに難しい状況となれば、FRB は先に発表した利上げを「徐々に(gradual)」進める方針を一気に切り替えることが予想されます。

第 1 四半期のトレードシナリオ:ドルは、スイスフラン(CHF)、ユーロ(EUR)、オーストラリアドル(AUD)、ニュージーランドドル (NZD) に対してロングです。

日本円 (JPY)

 ― 2016 年全体の円相場の先行きを予測するタイミングとしては、第 1 四半期より第 2 四半期またはそれ以降のほうが望ましいというのが率直な考えです。2016 年のいずれかの時点で、世界経済がアメリカの利上げに耐えることが可能だと実感すれば、世界的な利上げのようなものが起こる可能性が出てきます。そうなれば、円は2015 年第 4 四半期に続いて新たな値上りのきっかけを得ます。市場は 2016 年第 1 四半期中に、日本銀行が大規模な質的・量的緩和策を縮小して、他の政策手段や改革にシフトすることを示唆する兆しを嗅ぎつけるかもしれません。円相場の予測の要は、春の賃上げ交渉の結果です。

第 1 四半期のトレードシナリオ:円相場の先行き予測はタイミングとしてはもう少し待つ方が賢明だと断ったうえでトレードシナリオを提案するとすれば、たとえば USDJPY でドル高が進んだ段階から円安への見方を徐々に改めていくか、AUDJPY または GBPJPY の長期オプションを購入しておくことも考えられます。

弱い通貨

豪ドル (AUD)

 ― オーストラリア経済を支える基幹産業である鉱業の不振が続いています。その代役を担っているのがバブルの最終段階を迎えている住宅産業とローンを利用した個人消費です。しかし、景気浮揚のための利下げの効果も薄れてきて、2016 年にはそのいずれもが冷え込むか、少なくても減速は避けられそうにありません。中国人民元の値下がりと中国向け輸出の減少は、オーストラリアドルには引き続きリスク要因です。オーストラリア経済にとっての最悪のシナリオは、海外投資家が中国から引き揚げた資本で行ってきた国内不動産への投資の流れが止まることです。

ニュージーランドドル (NZD)

― 世界市場でボラティリティが拡大し、流動性の低い通貨を敬遠する傾向が強まっていることから、ニュージーランドドル安がいつ起きてもおかしくない状況にあります。それに加えて、貿易加重ベースでは高水準をつけたままで、NZ 準備銀行は第 1 四半期を通して貿易加重ベース相場のこれ以上の上昇には積極的に対応することが予想されます。長期的に見ると、NZD のインフレ調整後の実質実効レートも過剰評価されたままです。最近、ニュージーランドの主輸出品目である乳製品の価格が上昇しましたが、需要が増えたからではなく、渇水による供給減という NZD にとってはありがたくないことが要因でした。乳製品輸出による景気浮揚の可能性は低いと言わざるを得ません。

スイスフラン (CHF)

― スイスフラン相場にはほとんど動きがない状況が、2016 年第1四半期も続くと見ています。対ユーロ(EURCHF)で相場が動くとすれば、投資家の間で安全通貨であるスイスフランの需要が急増するような事態がどこかで起きる場合です。対ドル(USDCHF)では、スイスの政策金利がマイナスで推移していることから、アメリカの利上げによって生じる主要通貨間で最大の金利差に目をつけた取引により、下落(米ドルの上昇)が予想されます。

ノルウェークローネ (NOK) /スウェーデンクローナ (SEK)

 ― 2016 年を迎え、原油価格が反発すれば、ノルウェークローネも第 1 四半期に反転するかもしれません。しかし、利下げによって大規模な住宅バブルが発生したノルウェーとスウェーデンでは、国内民間部門の信用サイクルが変わり目にさしかかっているか、それに近づいています。金利を永遠に下げ続けるわけにいきませんが、ノルウェー中央銀行が 2016 年に新たな利下げを行うと見ています。ノルウェー経済は 2015 年を何とか乗り切りましたが、原油安の後遺症から立ち直るには時間がかかりそうです。

その他の通貨

ユーロ(EUR)

― ユーロについては、第 1 四半期にユーロ高が起こるとは考えにくく、対米ドルではむしろ下値を探る展開になると予想しています。しかし、ヨーロッパ経済は 2015 年第 4 四半期に堅調に改善しており、今四半期も改善が続くと見ています。信用面から判断すると不安材料はほとんどありません。ただし、ギリシャやポルトガルなどの周縁諸国の問題は解決したわけではなく、新たなリセッションが発生すれば(おそらくそれ以前に)、ユーロ圏は新たな「実存の危機」に直面するリスクを常に抱えていることに変わりはありません。

英ポンド (GBP)

 ― ポンドは現在、ちょうど岐路に立っており、2016 年の動向について明確な予測を行うのは難しいというのが現実です。市場は過去 1 年半、ポンドのことを「ドルもどき」とみなしてきました。それは、イングランド銀行が若干の時差はあるものの概ね FRB に追随する形で動いてきたからです。そのことは、2016 年当初はポンドの限界的な下支え要因になり得るのですが、そのプラス効果を相殺する要因があります。たとえば、イギリス経済の成長の見通しを危うくする緊縮財政、EU 離脱の可能性、イングランド銀行が 12 月の金融政策委員会で ECB に追随する形で、政策金利の据え置きを決めたことなどです。ほかにも、イギリスの高水準の経常赤字が、市場のボラティリティが拡大する環境下では、ポンドの上値を重くする要因となっています。

カナダドル (CAD)

― 2016 年の早い時期に原油安が底を打って上昇に転じることがあれば、好調な景気が続くアメリカの隣国であるカナダの景気改善に繋がることは言うまでもありません。そうなれば、資源国通貨の中でもやや不公平に思えるほど厳しい圧力に曝されてきたカナダドルが他の資源国通貨をアウトパフォームする可能性が出てきます。しかし、一部の先進国と同様に、カナダも民間部門の過剰レバレッジの後遺症と大幅な経常赤字という 2 つの信用サイクルのネガティブ要因を抱えています。

クレジットギャップ

サクソバンク証券株式会社

サクソバンク証券株式会社

サクソバンクは1992年にデンマークのコペンハーゲンで設立された投資銀行です。数々の賞を獲得してきたオンライントレードツール「SAXOTRADER」の開発と、独自のビジネスモデルにより、プロの機関投資家から常に高い評価を受けています。 180カ国以上の顧客にサービスを提供し、トレーダー、投資家の真のグローバルパートナーとして設立された投資銀行です。